ロンドン雑感:ロンドンの小地域統計

Posted by kiri on 2012 年 10 月 24 日
ロンドン

本日2回目の投稿(こちらでは日付が変わっている)。今日でCASAに来るのは最後。本格的に作業するには残り時間が中途半端なので、今日はあまり何にも着手できていない。せっかく時間があるので、ロンドンの小地域統計のお話を。

小地域統計というのは、読んで字のごとく、「小地域」の統計であって、小地域というのは、一般的には「〇〇町1丁目」や「大字〇〇」など、市区町村よりも小さい単位を指す(分野によっては市区町村レベルを「小地域」と呼ぶこともある。人口学のうち、特に動態を研究する分野はそうだったと思う(違うかもしれない))。日本の場合、国勢調査や事業所・企業統計調査(現・経済センサス)、商業統計調査、工業統計調査、農(林)業センサスなど、悉皆調査に基づく代表的な統計で、小地域統計が作成されてきた。現在は、e-Statなどで一部のデータを閲覧できるし、自治体も自分の地域に関連するデータを統計担当部署のウェブサイトで公開していたりする。京都市もそうだし、東京都や横浜市などは積極的に公開しているほうだろう。ただし、自治体によって公開状況にはばらつきがあるし、集計・公表されている項目もばらばらであることが多い。

一方、英国では、同様にセンサス(国勢調査)結果に関する小地域統計が作成・公表されている。英国センサスの小地域統計で使われる単位は、このページで詳細に説明されている。Enumeration Districtが日本の調査区にあたるが、通常、詳細なデータが公表されるのはOutput Area (OA)よりも大きな単位になる。前述のページにもあるとおり、最も小さいOAは、40世帯100人というサイズであり、空間的には日本の街区レベルの大きさぐらいといったところか。英国の場合、このOAを規模などが同一になるようにまとめ上げて作ったSuper Output Area(SOA)という単位も作られている。さらに上の階層として、Wardがある。Wardは日本語で通常「区」と訳され、政令市の区だけでなく特別区の訳語としても使われるが、英国のWardは自治体としての区ではなく、地方自治体内を区分する選挙区などの単位として使われる。ロンドンの場合、大きさは平均すると人口1万人程度の大きさなので、日本で言えば小学校区ぐらいの規模になる。京都の元学区や名古屋の連区と同じような位置づけだろう。

さて本題。センサスに関するロンドンの小地域統計は、基本的に英国のセンサスの集計体系にしたがって作成されている。データは、GLA(Greater London Authority)のサイトから一部がダウンロードできるが、通常、詳細なデータを入手するには、Census.ac.ukなどを利用する必要がある。ただし、データのダウンロードには、英国内の大学・研究機関のアカウントが必要なので、日本を含め、海外の研究者が簡単に入手することは難しい。一方、GLAのサイトには、センサス以外も含む様々な小地域統計が公開されていて(興味のある人は、London Datastoreで検索してみてください)、基本的に誰でも利用できる。特に便利なのは、Ward Profilesと、MSOA AtlasLSOA Atlasの3つ。MSOAとLSOAはSOAのうちのそれぞれ1つで、LSOAが最も詳細で、人口規模の平均は約1,600人。MSOAは約8,000人で、Wardは約12,000人。リンク先のそれぞれの3つの記事からは、Excelファイルをダウンロードできるほか、FlashベースのWebGISへのリンクもある。MSOAとLSOAは数が多いので、少し動作を確認するだけならWard Atlasにアクセスするのがよさそう。

Ward単位のGCSEスコアの分布(2011年)

Ward単位のGCSEスコアの分布(2011年)

最初は、GCSEという義務教育終了時に受ける全国的な統一試験(ニュースダイジェストによる説明)の結果に関するものを地図に示してみた。地図の中心がほぼロンドンの都心部のあたりになるが、南部や北西部の郊外でスコアが高く、都心やその東部、北東部ではスコアが低いことがわかる。

Ward単位のIncome Scaleの分布(2010年)

Ward単位のIncome Scaleの分布(2010年)

続いて、Income Scaleという指標。詳細な解説は、このPDFにあるが、ごく簡単に言うと貧困層の多さを表す指標になる。数字が大きいほどそのWard内の貧困層は多くなる。完全ではないものの、ぱっと見る限りは、GCSEのスコアが低い(薄い青)地域と、Income Scaleが大きい(濃い青)地域はだいたい対応している。ロンドンの場合、Ward単位で見ると、貧困と教育の程度の相関関係は明確なようだ。

Ward Profilesを使うとこのような地図をすぐに描くことができるし、Excelファイルがあるので、GISデータさえ入手できれば自由に地図を書くこともできる。統計的な分析ももちろんできる。学術的関心からすれば、今回挙げたような貧困や教育に関するデータは非常に興味深く、このようなデータを小地域単位で公開しているGLAは非常に素晴らしい組織のように思う(統計データの公開という点についてのみ)。日本の場合、同じようなデータを入手しようにも、全国統一の学力テストの結果は学校別では公開しない方向だし(泉佐野市は公開するらしい)、貧困の状況がわかるようなデータはほとんどない。Income Scaleの説明が書いてあるこのPDFには、貧困に関するその他の指標が紹介されているが、東京や大阪など、特定の大都市でこれぐらい作成できると、貧困に関する学術研究がより促進されるように思うのだけれど。。。データ的にはデリケートなものを多分に含むので、一般に公開するのは難しいかもしれないが。入手可能な指標から何とかして都市内の貧困に関する指標を作ることができないものか。。。

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